草笛 光子
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だれが何と言ってもまずは「光子の窓」である。
テレビの創生期、1958年から日本テレビで放送されたこの音楽バラエティ番組は、何ともオシャレで舶来の匂いがした。案内役は上品でアカ抜けた草笛光子。夢中になってテレビにかじり付いたものだ。ジャズ歌手だった父(笈田敏夫)が彼女と並んで画面に映る姿を見て、幸せな気分を味わったこともある。
草笛光子は松竹歌劇団のレビューを皮切りに、様々な映画や舞台に進出。映画は『社長シリーズ』から『犬神家の一族』まで多岐にわたる。舞台ではミュージカル俳優のパイオニアとして、芸術祭賞を三度も受賞している。他にも紫綬褒章、旭日小綬章と数え上げればキリがない。
「光子の窓」から70年近くの歳月が流れ、満を持して『九十歳。何がめでたい』に主演。原作者でエッセイストの佐藤愛子の日常をのびのびと演じている。断筆宣言をして、気ままに暮らそうと考える偏屈で頑固な作家と、何とか彼女に再び筆を執らせようとする編集者との戦いをユーモラスに描いている。原稿は書かないが、差し入れはいただく。わがまま三昧の年寄りを、世に愛すべき人物に仕上げているのは、草笛光子のキャラクターのなせる技。その堂々たる演技のおかげで、底抜けに明るく後味の良いコメディーに仕上がっている。
続く『アイミタガイ』では物語の鍵を握る老婦人の役。後半のピアノ演奏のシーンでは、ロングドレス姿でしゃなりしゃなりと登場するのだが、これほどロングドレスがフィットする日本人には、まずお目にかかれない。
最新作の『アンジーのBARで逢いましょう』では、再び主演を務め、謎のお尋ね者を楽しげに演じている。
今、文句なしに日本で最も輝いている女優の一人。しかも91歳。だれにもマネることの出来ない唯一無二の存在。ただただ感服するばかりだ。
(島 敏光)