長澤 樹
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『愛のゆくえ』で長澤樹が演じた“愛”は、笑わない、口数も少ない。一見、気弱く映るが、実際はとても強い。
長澤は、映画『ちひろさん』やドラマ「First Love 初恋」で、すでに若手俳優としての存在感を示している。だからこそ、愛の、内に秘めたその強さをどう演じるのか、それがこの作品における長澤に課せられた挑戦であり使命だったはずだ。初主演作というプレッシャーも加わるなかで、孤独な少女の心の成長過程を繊細に力強く演じたことを、まずは讃えたい。
人は、些細な悩みがひとつあるだけで、日々の生活に影響がおよぶ。愛には、短い期間にさまざまな出来事が降りかかる。複雑な家庭環境、学校でのいじめ、母親との死別、転校、家出、そして帰郷……。
最初にスクリーンに映し出される愛の眼差しには、怒りや悲しみ、諦めのような感情が滲み出ている。しかし、母との別れを経て成長する。成長せざるを得ない環境に放り込まれることで成長するのだが、この映画の真ん中にあるのは、愛と宗介の互いの気持ちだ。母の不在をとおして、二人の気持ちが特別な繋がりとして描かれる。
宗介に対する感情と向き合うことも愛の成長のひとつであり、難しいその感情を理解することも、演じることも、どれだけ大変だっただろうか。しかも、愛のセリフは決して多くはない。セリフに頼ることなく表情だけで伝える、演技の難易度はもちろん高くなる。
長澤の芝居から終始感じていたのは、感情が滲み出ているということだった。たとえば、母の代わりになろうとする宗介に「大丈夫」だと語りかけるシーン。「おかえり」「ただいま」と言い合い、涙が静かにこぼれ落ちる。長澤の顔はほとんど隠れているが、顔の一部でも感情を伝えられると監督が判断したと思われるシーンであり、つまりは、彼女の芝居には特別なものがあると決定づけるシーンでもある。感情を滲ませるその才能は、この先、俳優としての揺るぎない存在感へと変わっていくだろう。
(新谷 里映)