齋藤 潤
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冒頭シーン、合唱コンクールの地方大会で、歌う中学生たちを映すカメラのパンが齋藤の顔に吸いつくように止まる。瑞々しくキラキラしていてスクリーンが喜んでいる。
齋藤潤は2024年に5本の映画に出演、それぞれで大きな存在感を残した。日本映画批評家大賞として、『瞼の転校生』や『からかい上手の高木さん』の、学校や社会のルールに窮屈さを感じている中学生(その中でもいつもモテてしまうタイプ)とは真逆の役を演じた『カラオケ行こ!』の齋藤(撮影当時15歳)に新人男優賞を差し上げたい。
当時の齋藤は撮影が何日にもまたがる大きな役は初めてだったそうだ。聡実役の最終オーディションで監督の山下敦弘の気持ちは齋藤に傾いた。「一回目の時より齋藤くん、すごく良くなっている」。脚本の野木亜紀子は言った。「彼しかいない」。漫画原作者の和山やまも齋藤を推すつもりだったという。
齋藤が演じたのは、歌が上手くなりたいヤクザの狂児(綾野剛)に「歌を教えてほしい」と頼まれる中学の合唱部部長・聡実。真面目で悪目立ちを嫌い、変声期で思うようにソプラノパートが歌えず苛立つ聡実にとっては完全に巻き込まれ案件だ。カラオケボックスで二人きり。恐怖で大きな黒目がキョロキョロ動くのだが、途中から自分でチャーハンを注文して食べたかと思えば狂児の歌へのダメ出しは軽くドヤ顔、という聡実というキャラを見事に変化させていく齋藤。この作品が持つ笑いのエンジンを綾野と一緒に加速させた。そして、聡実がヤクザに囲まれながらその純情を爆発させるシーンには泣けた。そこには等身大の15歳が映し出されていた。15歳の役を同じ歳で、自身も変声期という成長の過渡期にいた齋藤が演じた事で唯一無二の聡実になった。
映画は観終わっても続く。聡実はもちろん、彼が映画で演じた人物たちがその後どう生きているか気になるように、俳優・齋藤潤が今後どんな映画人になっていくのか、とても気になる存在だ。
(安田 佑子)