新人監督賞

  • 『ナミビアの砂漠』

    『ナミビアの砂漠』

    山中 瑶子

    公式サイト

  •  規格外の新人監督が登場した。
     独自で学んだ映画術で自由に作り上げた処女作『あみこ』がわずか20歳でベルリン国際映画祭に招待され、これは史上最年少と話題になる。
     最新作『ナミビアの砂漠』で、山中瑶子監督は新人ならではの斬新なショットと、まるでベテランの職人監督のような安定した映像を同時に観せてくれる。

     この作品のオープニングでは町田駅前の雑踏の中、カメラはロングショットから次第にヒロインのカナの軽やかに歩く姿にフォーカスされていく。思わず「上手いっ!」と叫びたくなる。そこから女性同士の他愛のない会話。とびっきり優しいカレシを差し置いて、別のイケメンとデート。そのすべてがリアルで今時の若者の息吹が潜んでいる。

     カナに扮するのは『あんのこと』でも素晴らしい演技を披露してくれた河合優実。この映画は彼女からのアプローチもあって実現したと聞く。いち早く山中監督に目を付けた河合優実と、本作スタッフの眼力にも恐れ入る。
     カナは男を裏切り、鼻ピアスを入れ、スマホとタバコを手放せない、いわばクズ一歩手前の現代人。しかもかまってちゃんでエキセントリック。男から見ると何ともめんどくさい存在だが、それでも次第に彼女に親しみを覚えてしまうのは河合優実のキャラクターと監督の手腕のおかげだろう。

     ストーリーは、女と男のリアルな日常をきめ細やかに描きながらも、エンディングが近づくにつれ、ケンカの途中で、そのケンカの映像をランニング・マシーンの上で走りながら、スマホで本人が見ているシーン等、思わず「ウソでしょ!」と思うようなシュールなシーンが連続する。一つの作品に繊細と大胆が平然と同居している。

     この作品はカンヌ国際映画祭に出品され、女性監督としてやはり史上最年少となる国際映画批評家連盟賞に輝いた。山中瑶子監督の次の一手に注目せざるを得ない。

    (島 敏光)

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