ドキュメンタリー賞

  • 『大きな家』

    『大きな家』

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  •  ドキュメンタリー『大きな家』は小さな映画だ。この作品はとある児童養護施設に暮らす子供達の日常を映し出す。そこは子供達にとって家なのか。一緒に暮らす皆は家族なのか。食事を作り、入学式や卒業式に付き添う職員は親のようなものなのか。死別、病気、虐待、経済的問題等の事情で親と離れて暮らす彼らの答えは短く深い。筆者の無知から来るフィルターは溶かされ、鑑賞後に爽やかな余韻が続いた。

     今作の企画・プロデュースを務めた齊藤工は、旧知の仲である竹林亮監督の『14歳の栞』(21)を観て感銘を受けた。内容だけでなく、被写体である中学生達のプライバシー保護のため、配信、DVD化はせず劇場公開のみの作品とし、劇場で観客にそのメッセージを伝える被写体ファーストの哲学に。齊藤は以前訪れた施設の子供達をこの形でなら応援できるのではと今作の監督を竹林に依頼した。

     人は信じていない人間に自分の心は打ち明けない。ドキュメンタリーの取材・制作は人間力が試される。今作でも、竹林と少数の現場チームの子供達への向き合い方は真摯だった。竹林が彼らと過ごした4年という時間の中で心掛けたのは「こうなったらいいな、こんな画が撮りたい、と思わない」「追いかけたくても追い続けない」事だという。同時に劇場用映画として映像、構成、音、編集等の質も妥協していない。そんな欲張りで無欲な作品が完成した。

     『大きな家』もソフト化、オンライン配信の予定はない。劇場では観客に「子供達の未来のためにSNSでのネガティブな意見は遠慮してほしい」というメッセージが届けられた。齊藤はインタビュー記事の中で「製作側の誰一人、売上を目的としていないピュアな作品がひとつくらい劇場で公開されてもいいのではないか」と話していた。私達はそんなピュアな良品に賞を差し上げてもいいのではないかと考えた。

    (安田 佑子)

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