森 優作
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森優作の演じた土居圭吾は、ミステリアスでなければならなかった。
主人公・沙織里(石原さとみ)の弟であり、失踪した幼女の叔父であり、その幼女の失踪前に会っていた事件にいちばん近い人物として、土居は物語に存在する。彼は、事件にどう絡んでいるのか? 観客を混乱させる役でもある。何が本当で何がそうではないのか、捉えようによってはどちらにも傾くような、そんな繊細な演技が求められる役。表情はもちろん、声から伝わってくる感情も見事だった。
森は、土居を演じるにあたり「通りがかりの市民みたいな素のままのトーン」を心掛けたという。たしかに、姉に何を言われても、テレビ局の取材を受けても、仕事先でも、事件に近い人物であるのに、最初は、どこか他人事のように振る舞っているように見える。一方で、孤独感が見え隠れし、その隙間からは純粋さもうかがえる。
そして、土居がある行動に出たことで、姉弟そろって嗚咽するあの車中のシーンに繋がっていくわけだが、ずっと感情を抑えたミステリアスな演技をしていたからこそ、あの嗚咽が効いてくる。それまで彼が抱えてきた苦しみがあふれ出て、こちらも胸をしめつけられる。沙織里が投げてくる強烈な感情の塊を受けとめて、受けとめて、姉弟としてのクライマックスで分かち合う。感情の出し所の配分が素晴らしかった。
物語を引っぱる主演を支える助演、主演を光らせる助演、石原の渾身の演技の裏側には、森の助演たる力が確実にあったといえるだろう。
通訳になりたくて留学した英国で演劇に興味を持ち、帰国後、古厩智之監督のワークショップを経て映画『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』に出演。それをきっかけに俳優の道に足を踏み入れた。さらに、塚本晋也監督作『野火』のオーディションで役を勝ち取り、出演作が増えていく。二十代半ばでスタートした俳優のキャリアは12年を迎える。ミステリアスな演技を手に入れた森優作の今後は期待しかない。
(新谷 里映)
※塚本晋也監督の「塚」は、旧字の点ありが正式になります