綾野 剛
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綾野剛は、面白くて仕方がない。
正直、『カラオケ行こ!』の演技も、原作のイメージにチャーミングさを際立たせていた点で、彼のユニークさが「MIU404」でも目にしたバディもので更に味わいを増すのだと実感していた。それが顕著に現れたのがオリジナル脚本の『まる』であり、確実に役に色味を与える俳優になっていたのだ。
本作では、主演の堂本剛の掴みどころのない佇まいによる独特の空気感を声だけの出演でそのシーンにさざ波を起こし、姿を見せた瞬間に映画のカラーを変えてしまった。間違いなく横山というキャラクターは孤独な老人になるであろうところを、堂本演じる沢田との出会いによって方向転換できたとまで観客に想像させる演技を綾野は見せたのだ。しかもそこまでクセの強い演技をすれば主演を喰いかねないが、堂本とは違う色合いの輝きを放つことで、本作は後半からバディものへと変化していく。これは間違いなく、多くのバディ作品で相手の演技を受けてアプローチをする技を綾野が身につけたからできる表現だろう。
加えて、綾野は、抑揚ある感情の出し方が実に上手いのだ。
それを本作では存分に堪能できるのだが、これは声の音量から柔らかさ、テンポまで計算し尽くした結果といえる。推測するに、声を意識しながら演技を構築していったのではないか。本作で助演男優賞に、と思った理由はここにある。姿なき隣人の危険性は声だけで察することができ、登場するも人との距離感という概念がなさそうな様子に観客はこの男のヤバさを知る。やがて屈託のない笑顔に「悪人ではなさそうだ」と主人公と同じ目線で男を認識するようになる。更に素晴らしいのは、いつの間にか“面倒なタイプだが、居ないと少し寂しい”とまで思わせる人物として幕を引く点だった。
一見、作り込めば簡単そうに思われがちな役だが、愛着を持たせるまでに演技で表現するには、役への分析と日頃からの人間への好奇心とリサーチが大切だ。何より、“役を愛している”ことが垣間見える屈託のない笑顔がスクリーンに焼き付いていた。この演技を評価せずにはいられない。楽しい映画体験を与えてくれた綾野剛に心から感謝する。
(伊藤 さとり)